大型LCD需給反転と加熱するLCD投資
田村喜男の視点
ほぼ1年間続いた大型LCD供給不足が供給過剰へ転換し始めた。
米国でのワクチン接種浸透により、コロナバブルは終焉を迎える方向だ。米国消費は、巣ごもり生活による過剰な情報家電・ゲーム機・TV消費が、通常時の娯楽・旅行消費・外食費などへ戻り始めているようだ。米国でのTV販売は、4月半ばから前年同期比2桁減少が引き続いているという。米国TV需要は2020年第2四半期から急増、第3四半期には前年比1.5倍にまで達した。その後徐々に減速して、2021年第2四半期の米国TV出荷台数は2019年並みとなりそうだ (下図)。
大型LCD需給反転に関連する事象は複数出てきている。
1) 巣ごもり需要が牽引した米国TV需要の減速・バブルの終焉
2) コロナウイルス感染急拡大による、インドなどでの各種消費の減速 (32-43" TV在庫が増加傾向)
3) Samsung VDが、2021年販売計画を4800万台以上から4300万台へ下方修正
4) 中国LCDメーカーのTVブランドに対する積極的な売り込みが一部で始まった (供給不足時にない現象)
5) LCD TVパネル価格上昇率が5月から緩和し始めた
このような複数の事例により、DSCCでは、大型LCD需給反転はすでに始まったと判断している。
さて、2021年下半期の動向であるが、7-8月にはTV用LCDパネル価格が下落に転ずる可能性が出てきた。2021年第2四半期におけるLCDメーカー各社の収益は高水準にある (一部では+20%を上回る) ため、TV用パネルの供給過剰が顕在化しても、生産調整を行わずにパネル価格を引き下げて高稼働率を維持し続けようとする。少なくとも2021年第3四半期は高稼働率を維持するであろう。IT用パネルの需給バランス次第ではあるが、LCD全体で供給過剰・パネル在庫過剰が顕在化しても依然高収益 (下図) という観点から、2021年第4四半期も生産調整する可能性は低いと見る。生産調整しない場合、ドライバーICやガラス基板など各種部材のタイト感は当面引き続きそうだ。2021年は当初予想通り供給過剰に向かうことになるが、LGDとSDCの韓国勢は韓国でのTV用LCDパネル生産を2022年も継続する意向である。しかし2022年の供給過剰、収益次第では、2022年途中でダウンサイジングやシャットダウンへ変更する可能性もある。
その一方、China StarやHKCの8.6世代LCDライン新規投資に続き、BOEが3本目の10.5世代LCDライン投資を計画し始め、数か月内に正式決定、さらにCHOTの買収計画も進めているという。BOEはこの投資により、多くの8.5世代ラインをIT用パネル生産に切り替えていく方針であるという。この結果、10.5世代LCDラインは世界で全6本となり、2023年以降もさらなる供給過剰が懸念されることになる。中国LCDメーカーは8.5世代級LCDラインでIT用パネルの能力増加を継続する方針であり、5-6世代LCDラインでもIT用パネルを量産している台湾勢の脅威となっていくことになる。
コロナバブルによるLCD高収益化と強いIT用パネル需要により、一旦終焉を迎えると見られていたLCD投資がこのように過熱している。LCD市場のクリスタルサイクルは引き続くということになるが、BOE3本目の10.5世代LCDラインフル稼働後の2024年以降のLCD市場は一体どうなっていくのであろうか。
DSCCアジア代表
田村喜男
本記事の出典調査レポート
Quarterly Advanced TV Display Cost Report
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