SID 2022技術セッション報告 (1)

Published May 16, 2022
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1. はじめに

Display Week 2022はシリコンバレーのSan Jose Convention Centerで5月8日から13日まで開催された。2年連続のバーチャル開催を経て今年はオンサイト開催となった。実際は、オンサイトとバーチャルのハイブリッド開催で、著者 (※UDDI 鵜飼 育弘氏) は諸般の事情で自宅でのビデオ参加をした。

今年は、オンサイト開催に切り替わったことに加え、1962年設立以来ディスプレイ業界の発展に尽力を尽くしてきたSociety for Information Displayの60周年を記念したイベントが開催された。なお、2019年開催は今年と同じSan Joseで液晶ディスプレイの50周年記念が開催された。

Display Weekでは、市場に焦点を当てた業界最大規模であるフォーラム、SID/DSCC Business Conferenceも開催された。Conferenceでは、市場動向と技術動向に重点的に進化し続けるビジネス環境、変化する市場とその技術ニーズに対応した新しい戦略を学ぶことができる。なお、昨年は1万人の参加者を記録した。今年は5月15日現在、7400人 (現地参加5046人以下%で表示) で内訳はUSA3728 (98%)、中国1637 (13%)、韓国677 (75%)、日本 422 (39%) およびドイツ189 (81%) である。

2. SID 2022 Symposium論文概要

図1にAbstract受理数について、2021年と2022年の比較およびTop 3 Subcommittee (Technology track) とTop 3 Topicsを示す。図から、Abstract受理数は2021年の501件から2022年は546件に増えた。Subcommittee別では、AMD: Active Matrix Display 81件 (14.8% )、OLD: Outdoor Large Display 87件 (13.3%) およびEMQ (Emissive, Micro LED, and Quantum-Dot Display) 61件 (11.2%) である。TopicsはOLED 11session (18%)、AR/VR/MR 11session (18%) およびFlexible/stretchable Display 7session (9%) である。

図1 Abstract受理数とTop subcommitteeおよびTopics
©SID 2022資料

図2に主要国別の論文数とDW2021とDW2022の比較を示す。2022年トップの韓国は155件で昨年の66件から大幅に増えた (134%)。2番は中国で136件 (11.5%増加)、3番はUSAで75件 (8.7%)、4番日本は53件で3.6%の減少である。国内のディスプレイ産業の衰退が学会レベルでも顕著といえる。

著者は、「当たり前のことを言うようだが、出生率が死亡率を超えなければ、日本はいずれ消滅するだろう。世界にとって大きな損失になる」とイーロン・マスク氏の衝撃的な警笛を最近耳にした。

図2 主要国別論文数
©SID 2022資料

3. 基調講演

今年は、3人ともディスプレイ業界のキープレーヤーである企業の上級幹部が登壇し、ディスプレイ開発におけるイノベーションと進化の必要性について、異なる視点から講演した。ここでは、LG Displayの講演概要を述べる。

3.1 ニューノーマルとディスプレイ

(1)ニューノーマル時代

LG Display EVP & CTOのSoo-Young Yoonは”The New Normal and Displays”と題した講演をした。以下に概要を述べる。

LG Displayの OLED技術は、スマートフォン、スマートウォッチ、ラップトップ、テレビで既に私たちの日常生活に組み込まれている。近年の環境変化COVID-19が「ニューノーマル」を生み出し職場、自宅および店舗での生活が変わった。その結果、図3に示すように2019年に比べ2021年のディスプレイ使用時間および要求数量は共に増加した。

また、企業が長期的に成長するためには、経営においてESGの3つの観点が必要だという考え方が世界中で広まっている (図4参照)。なお、ESGとは、環境 (E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス (G: Governance) の英語の頭文字を合わせた言葉である。

したがって、ニューノーマル時代には図5のような対応が求められる。したがって、実世界と仮想世界の間の窓としてのディスプレイの役割の重要性が高まる。その結果、ディスプレイデバイスには汚染や有害物質の使用を避けながら、視聴覚体験を自然に伝えることが求められる (図6参照)。

図3 ディスプレイデバイス利用の増加
©LDG SID 2022資料
図4 ESGの必要性
図5 ニューノーマル時代への対応
©LDG SID 2022資料
図6 Natural Reality
©LDG SID 2022資料

(2) OLEDによるNatural Reality

図7に示すように、

・Pixel Dimming
・Perfect Black
・High Color Fidelity

技術を駆使して「Natural Rreality自然さ」を実現する。

図7 OLEDによる「自然さ」実現
©LDG SID 2022資料

図8はLCD (30×18バックライトユニット (BLU) によるローカルディミング) と自発光OLED (3840×2180画素) のダイナミックレンジを人間の目との比較で示す。図から明らかなようにOLEDはLCDに比べ広いダイナミックレンジを有すことがわかる。確かにOLEDは自発光なので黒レベルはLCDに比べ優れているが、OLEDは輝度と寿命がトレードオフのためLCDのようにBLU電流を増やすことでの輝度を増加することはできない (著者注)。

図8 ダイナミックレンジ
©LDG SID 2022資料

反射特性を含むパーフェクトブラックは自然さを実現する。図からLambertianがキーコンポネントであることがわかる(図9参照)。なお、ランバート反射とは、理想的な拡散反射表面が持つべき性質である。理想的な拡散反射表面の輝度は、図右のようにどの角度から見ても一定である。

図9 表面反射
©LDG SID 2022資料

LCDのフリッカー (ちらつき) はPWM (pulse width modulation: パルス幅変調) 駆動あるいはバックライトのLocal dimming (ローカルディミング: 部分駆動) によるが、OLEDはフリッカーフリーである (図10参照)。したがって、目に見えないちらつきさえもなく「ちらつきのない」、目を緊張させない肉眼では検知できない瞬き現象を解消することで、最小限の眼精疲労で表示する。目の健康を考えると、「UL」および「TUV」によって認定されたOLEDの選択をすすめる。

最近のLCDのフルアレイ・ローカルディミング (FALD) テクノロジーを備えた1152ゾーンのミニLEDバックライトの制御にDC (Direct-Current) 方式を採用することで、フリッカーを発生しないようにしている (著者注)。

図10 フリッカー
©LDG SID 2022資料

図11にLCDとOLEDの色忠実度の比較を示す。図から色差ΔEは、LCDが2-10でOLEDは≦1.0である。したがって、OLEDは階調による色変化がLCDに比べ小さいことがわかる。

図11 色忠実度の比較
©LDG SID 2022資料

図12にOLEDとLCDの近紫外から可視光領域の発光スペクトルの比較を示す。図から、LCDはOLEDに比べてブルーライトが50%少ないことがわかる。なお、ブルーライトとは、波長が380~500nmの青色光のこと。ヒトの目で見ることのできる光 (可視光線) の中でも、もっとも波長が短く、強いエネルギーを持っており、角膜や水晶体で吸収されずに網膜まで到達する。

講演では述べられなかったが、最近の研究から下記の事実が明らかになり対策も見直されている。ヒトの目の網膜には、光の色を感知する「錐体」と、暗い所でも明暗を感知する「桿体」という2つの視細胞が存在する。しかし、約20年前に第三の光受容細胞が見つかり、内因性光感受性網膜神経節細胞 (ipRGC) と名付けられた。これらの細胞は感光色素メラノプシンを発現し、概日リズム (circadian rhythm) の光同調の調節と、光に対する瞳孔反射の生起とにかかわっている日本眼科学会ら6団体が連名で発表した「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」によると、デジタル端末の液晶画面から発せられるブルーライトは、曇りの日や窓越しの自然光よりも少なく、網膜に障害を与えることのないレベルである。また、ブルーライトカット眼鏡をかけることで眼精疲労が軽減されるのかを調べた、最新のランダム化比較試験では、効果は認められなかったことは、ブルーライトが目に悪いという科学的根拠は、今のところない。

また、子どもにとっては、太陽光は心身の発育に必要なもの。十分な太陽光を浴びない場合、子どもの近視が進むリスクが高まることがわかっているそうで、意見書では「ブルーライトカット眼鏡の装用は、ブルーライトの曝露自体よりも有害である可能性が否定できない」と指摘し、「小児にブルーライトカット眼鏡の装用を推奨する根拠はない」ことを強調している。

目が疲れやすい方は、ブルーライトをカットすることよりも、意識的に休憩をとることが大切である。米国眼科アカデミーは、目の疲れを和らげるもっともよい方法は、「頻繁に休憩をとって、画面から目を離すこと」とアドバイスしている。

図12 ブルーライト
©LDG SID 2022資料

(3) OLEDは環境にやさしい

OLEDは、

・Less Plastic Usage
・High Recycle Rate
・Less Hazardous Substances

である (図13参照)。

図13 OLEDは環境にやさしい
©LDG SID 2022資料

図14にLCDとOLEDのデバイス構造とプラスチック含量を示す。図からOLEDはLCDの10%であることがわかる。図15にリサイクル率と有害物質の使用を示す。OLEDは、リサイクル率が90%でしかも有害物質 (例えばCd、InPなど) は少ない。

有害物質を減らすことは、家族の健康だけでなく、次の世代に引き継ぐ環境にとって必要な取り組みでもある。OLEDがSGSの認定を受けた環境に優しいディスプレイであることを述べた。

図14 Plastic Usage
©LDG SID 2022資料
図15 高リサイクル率、少ない有害物質
©LDG SID 2022資料



取材・執筆:UDDI 鵜飼 育弘氏 (5月16日)

Written by

Counterpoint Research (日本窓口 DSCC)

info@displaysupplychain.co.jp