FPD生産ライン稼働率はQ3’23にさらに上昇、業界は供給過剰リスクに直面
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この記事は7月26日付 (米国時間) のDSCCグローバル発ブログ Fab Utilization Increases Further in Q3’23, Industry Risks Oversupply をDSCC Japanのスタッフが全文和訳したものです。
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Q1’23に始まったFPD生産ライン稼働率の上昇はQ2’23に加速し、Q3’23も継続している。DSCCが先週発行した Quarterly All Display Fab Utilization Report 最新版で明らかにしている。FPDサプライチェーン在庫はこれまでに通常水準まで削減されており、再補充が需要増加につながっている。ただし、LCDメーカー各社による稼働率の大幅な引き上げは、需要を上回ることでLCDの価格上昇が抑制されるリスクを伴っている。
本レポートは業界のすべてのFPD生産ライン (合計100以上) の生産能力、TFT基板投入量、稼働率を月次ベースで詳細に提示、データはピボットテーブル機能によってFPDメーカー、国、TFT世代、バックプレーン、フロントプレーン、基板タイプのセグメンテーション別に表示できるようになっている。稼働率については、Q1’19以降の実績データと2023年通年の月次予測データを提供する。
一つ目のグラフが示すように、2021年からQ1’22にかけてはパンデミックによる需要急増を受けて、台湾と中国で生産ライン稼働率が特に好調だった。その後、マクロ経済と地政学のショックによって需要は急落した。稼働率はQ2’22に6%低下し、Q3’22にはさらに15%低下して65%となり、2008年から2009年にかけての金融危機以来の最低水準を記録した。Q4’22には稼働率が67%へとやや回復し、Q1’23にはさらに70%まで回復、その後Q2’23に81%まで急上昇した。最新の情報によると、稼働率はQ3’23に83%まで上昇するものの、Q4’23には79%へと徐々に下がる見通しである。
DSCC の共同創業者兼最高財務責任者 (CFO) であるBob O’Brienは次のように述べている。「減速は広範囲の全生産地域に及んでいるが、これまでのところ中国では回復が他地域より早くなっている。この減速はLCDだけでなくOLEDの生産にも影響が及んでいるが、その影響はOLEDラインのほうが深刻で長期化している。韓国はOLEDの生産能力シェアが著しく高く、その他の地域はいずれもLCDが優勢である。2022年にSDCのT8ラインとLGDのP5およびP7ラインが閉鎖され、Q3’23年には韓国の生産能力の59%がOLED生産となっている一方、中国ではOLEDのシェアは6%にすぎず、その他すべての地域ではごくわずかなシェアとなっている。」
LCDライン不振の要因は共通している。LCD価格の急落と在庫の蓄積である。LCD生産能力については、完全に置き換え可能というわけではないが、大部分は代替可能であるため、ある世代サイズの能力不足を別の世代サイズで補うことができ、同様に、あるサイズの供給過剰が別のサイズに波及する。OLED生産能力については状況が異なる。OLED能力は5つのクラスに区別され、クラス間にはほとんど重複がない。
- LGDの白色OLED能力については、第8.5世代ラインで酸化物TFTバックプレーン搭載OLEDをTVおよびモニター向けに生産している
- SDCはQD-OLED能力については、同様に第8.5世代ラインで酸化物TFTバックプレーン搭載OLEDをTVおよびモニター向けに生産している
- リジッドOLED能力については、大半がSDCだが、第5.5世代以下の小規模ラインでLTPSバックプレーン搭載OLEDがスマートフォン、タブレット、ノートPC向けに生産されている
- LGDのPaju E7ラインでは、リジッド基板薄膜封止 (リジッド + TFE) 技術によるRGB OLEDをITアプリケーション向けに生産している
- フレキシブルOLED能力については、多くのサプライヤーが主に第6世代ラインでLPTSまたはLTPOバックプレーンを搭載したOLEDをスマートフォン向けに生産している
低迷の要因は能力クラスごとに異なるが、共通要因として一つ挙げられるのは電子機器需要の減速である。
LCDについてさらに詳しくメーカー別の月次稼働率を見てみると、業界全体のLCD投入面積の87%を占めるLCDメーカー上位7社がいずれもQ2’23に劇的な回復を示した。このグラフからは、すべてのメーカーが景気後退から回復しつつあるなか、他社よりも回復が早いメーカーもあることが読み取れる。
不振が最も深刻で回復が最も遅いメーカーはAUOとSharpである。AUOは原価以下の売上を競うのではなく、価格について立場を譲るくらいなら取引を拒否する決断を下したようだ。Q2’23にはTV用LCD価格が上昇しており、AUOも稼働率を引き上げることができた。
AUO同様、Sharpも2022年下半期に稼働率が急落し、2023年に入っても中国系メーカーに遅れを取っている。Sharpの生産能力では、堺市にあるオリジナルの第10世代ラインと中国の広州にある後発の第10.5世代ライン、2つの第10世代以上ラインが大半を占めている。堺ラインはQ3’22からQ1’23までの3四半期にわたりきわめて低い稼働率に苦戦、9ヵ月間の稼働率は30%未満だった。堺ラインの稼働率はQ2’23になって急上昇し、2023年3月の35%から6月には81%に到達しており、DSCCでは堺ラインの第3四半期の稼働率は95%になると予測している。
FPD業界はここ10年以上で最悪の低迷に見舞われた後、2023年上半期に回復を始めた。しかし、業界の生産能力はFPD需要をはるかに上回っている状態が続いており、稼働率引き上げを進める業界の動きは、需給バランスが今年下半期に供給過剰に傾くリスクをもたらしている。
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DSCCの Quarterly All Display Fab Utilization Report は、業界のすべてのFPD生産ラインを対象に生産能力、TFT基板投入量、稼働率のデータを月次ベースで提供しており、データはピボットテーブル機能によってFPDメーカー、国、TFT世代、バックプレーン、フロントプレーン、基板タイプのセグメンテーション別に表示できるようになっています。稼働率については、Q1’19以降の実績データと2023年通年の月次予測データを提供しています。